ムネモシュネ・シナプス

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都会サラリーマンは田舎キャンプの夢を見る

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AM4:40 アラームが鳴る数分前に勝手に目が覚める。アラームが正しく鳴るまでは、眠気を喉に詰まらせたままベッドの中で動かない。

 

AM4:45 清々しい和音でゆったりとした音楽が鳴り出す。最近のスマホでは「優しく起こすため」の目覚め用アラーム音が設定できるが、慣れてくればこれらもアナログの目覚まし音も大して変わらない。どっちも鳴れば憂鬱だしムカつく。

 

AM5:50 6時すぎの電車に乗るために家を出る。冬場はまだ真っ暗で凍てつく寒さ。

雑なドライヤーのせいでまだ少し湿っている髪にさらに寒さが染み込む。

 

AM6:05 最寄駅から電車に乗る。乗り換えまでたった5分、それでも座りたいと思うけど、もちろん今日も空席はない。みんなほんのり、空気に触れたばかりの整髪料、化粧品、香水の匂いをまとっている。

 

AM6:10 大きな駅で電車の乗り換え。部活の朝練に向かう学生だけが生気を放っている。いつも乗り込む車両位置まで早足で向かい、列に並ぶ。

 

AM6:12 心を無にして快速電車に乗り込む。すでに全座席に人が座り、その前には人が立ち、ドア側の人たちはそんな簡単に押されるまいと体を強張らせ、車内中程の人たちは無意識にホームに並ぶ人の数を目で追う。なぜか今日は人が多い。「東京の奴隷船」こと超満員電車を避けるために早起きしているのに、こういう日は朝からテンションが下がる。

 

AM6:14 車内で本を読もうか一瞬迷うが、今日も表紙すら開かず。惰性のままにイヤフォンを装着し、体を縮こませてダウンビートのアルバムを聴く。隣の人の大きな鞄が腕に当たるので、睨み返そうと顔を上げると、その人は目の下に青黒いくまをこさえて立ったまま居眠りしている。怒りが鎮まり音楽に気を戻す。

 

AM6:40 やっと降車駅に辿り着く。少しずつ頭と体があったまってきて、今日やるべきことを整理し始める。5つある改札の右から2番目を通り抜けるのが毎朝の儀式になっている。

 

AM6:50 オフィス近くのカフェに入る。豆乳ラテのMサイズとベーグル頼むと、馴染みの店員さんに愛想良く挨拶をして、口角を少しあげたまま飲み物が仕上がるのを待つ。ここで今日の笑顔カウンターが1カウントされる。

 

AM7:00 人が少ない窓辺の席を確保し朝食を摂る。会社のパソコンを起動させてメールを確認する。いつも長文ばかり送ってくる奴のメールに苦々しい思いで目を通す。多分こいつは格助詞が何かも知らないし、主語と述語の基本構造すら理解していない。

 

AM7:50 豆乳ラテも残り少なくなり、メールも一通り返信し終える。私の1日はここで終わってもいいんじゃないか。すでに疲労感が腰くらいまで漂っている。カフェの外は人通りが多くなり、満員電車の毒気を抜きながらサラリーマンたちがそれぞれの戦場へ向かっている。それを横目にスマホを取り出しインスタやTwitterを眺める。Tiktokを始めた方がいいのかぼんやり考える。

 

AM8:15 カフェを出てオフィスに向かう。朝の冷気に少し背筋がしゃんとなる。会社に着くこの5分そこそこで戦闘態勢が整う。脳内が労働モードに切り替わり、考え事は今日の営業先に提出する資料の選定になる。 

・・・
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PM6:15 見積書を作成しているが、2時間ほど前にすでに集中力は充電切れ。定時を過ぎていつ帰ろうかタイミングを見計らっていたら、めんどくさい見積もり押し付けられた。こういう状態で数字や事務書類を扱うと大抵ケアレスミスをしているし、もう時間も時間なんだから明日に回してもいいじゃないか。「メールは即返信」「電話ばかりかけてくる人は無能」とかなんとか啓蒙ビジネス書ばかり読んでる上司にとっては、質より速さなのだ。時々賛同できることも言うけど、今はただひたすらうざい。「できる上司はさっさと仕事を終わらせて定時で帰れ。」

 

PM6:45 やっと退勤。外出すると運動後のような爽快感があるのに対し、内勤の日は人の邪魔ばかり入って自分の仕事が進まないから苛立ちばかり溜まる。もっとアポを増やそう。

 

PM7:00 電車に乗り込むと同時に入り口横の席が空いた、ラッキーである。脇目も触れず一直線に席に座り込むと、鞄を抱え込んで居眠り態勢に入る。目を瞑ってため息をつくと、膨張した脳の空気が抜けていくようである。

 

PM7:25 乗換の駅に到着。少し昼寝(夜寝?)もできて、副交感神経優位になってきているのを感じる。ふわふわした頭のまま改札を出て、駅ビルに入る。エントランス付近の花屋さんに青くて小さな花が売っている。その隣の大きな白い花との組み合わせに見惚れてしまう。

 

PM8:15 目玉焼きののった焼きそばパックを入れた袋、もう片方の手には白と青の花が一輪ずつの慎ましい花束を握ってもう一度改札をくぐる。実は鞄の中には、衝動買いしたサンダルウッドベースのアロマオイルと、インスタで見て狙っていた限定色のチークと、同じブランドのフェイスパウダーが入っている。

 

PM8:40 両手に荷物を持っているためもたつきながら鍵を開け、やっと帰宅。キッチンスペースに焼きそばを置き、鞄をベッド横に放り投げると、埃をかぶった花瓶を綺麗にして買ったばかりの花を活ける。

 

PM9:00 化粧も落として部屋着に着替え、大きなリボンのついたタオル地のヘアバンドで顔まわりの髪を全てのけると、電子レンジでチンした焼きそばを食べ始める。パソコンでYoutubeを開いて、キャンプ用品を駆使しながら自然の中で食事を摂る動画を視聴する。この動画を見るのはもう3回目。

 

PM9:30 歯磨きを済ませてベッドに横になる。部屋の電気もすでに常夜灯。スマホでネットサーフィンをしているうちに瞼が落ちて、知らないうちに眠っている。

 

都会サラリーマンは田舎キャンプの夢を見る。

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